今回は「自筆証書遺言」の「法務局保管制度」について、ご説明させて頂きます。
1.結論
最初に結論からお伝えいたしましょう。
「自筆証書遺言の法務局保管制度」を利用すると、公正証書遺言のメリットと、自筆証書遺言のメリットの両方をほぼ享受できる、ということです。
以下、順を追ってご説明いたします。
2.「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」
遺言書は、通常大きく分けて二種類のものがあります。一つは「公正証書遺言」、もう一つが「自筆証書遺言」です。
「公正証書遺言」は公証役場で作成してもらう遺言書です。これに対して「自筆証書遺言」は自分で作成する遺言書です。
この二つの遺言は、簡単に言いますと、それぞれ次のようなメリットとデメリットがあります。
3.公正証書遺言のメリットとデメリット
《メリット》
①公証人が作成(形式的無効にはまずならない、検認不要)
②公証役場で保管される
③比較的、証明力が高い
《デメリット》
①作成にやや時間がかかる
②費用が高い
4.自筆証書遺言のメリットとデメリット
《メリット》
①自分で作成できる
②すぐに作成可能
③費用があまりかからない
《デメリット》
①相続開始時、裁判所の検認手続きが必要
②形式的無効となり得る
③紛失する可能性がある
④比較的、証明力が低い
5.公正証書遺言と自筆証書遺言のメリットとデメリットのまとめ
上記を簡単にいえば「公正証書遺言はしっかりしたものを作ってもらえるが、時間がかかり費用も高い」、「自筆証書遺言は簡便で費用もあまりかからないが、遺言者の死後に裁判所で検認という手続が必要になり、また、形式違反により無効となることや、紛失してしまうことがある。遺言書の証明力も公正証書遺言に比べれば低い」ということになります。
つまり「自筆証書遺言」は、簡便ではあるが実用性に不安がある、というものでした。
この点を改善するのが、2020年7月10日から始まった法務局保管制度です。
6.自筆証書遺言の法務局保管制度
法務局に対して一定の申請手続きを行うことにより、自筆証書遺言を法務局で保管してもらえるようになりました。
この法務局保管制度を用いると、次のようなメリットが生じます。
①相続開始時に、検認の手続きが不要になる。
②保管する際に遺言書の要件を満たしていることの確認が必要となるため、結果として「形式的な無効」を回避できる。
③法務局で保管されるため、紛失を避けられる。
7.自筆証書遺言・法務局保管制度のメリットとデメリット
《メリット》
①自分で作成できる
②比較的早めに作成可能
③費用は比較的安め
④検認手続き不要
⑤形式的無効とならない
⑥法務局で保管される(紛失を回避できる)
《デメリット》
①法務局に行く必要がある
②法務局の申請手続が必要
③比較的、証明力が低い
つまり、「自筆証書遺言」のデメリットを「法務局保管制度を用いた自筆証書遺言」はほぼ解消してくれることになるのです。
法務局保管制度を用いても解消されないデメリットは、公正証書遺言に比べると「証明力が低い」という点です。たとえば相続人間で紛争が生じそうな場合には、より「証明力が高い」公正証書遺言を用いた方がよいかもしれません。
しかし、そのような問題が生じない場合には「法務局保管制度を用いた自筆証書遺言」が有用、ということになりそうです。
ただし、「法務局保管制度を用いた自筆証書遺言」にもデメリットがあります。
遺言者自らが法務局に行き、法務局担当者に本人確認をしてもらったうえで手続きをとる必要があるため、入院中であるなど、法務局に行くことが出来ない方はこの制度を利用できません。
また、保管手続用の申請書を作成したうえで法務局への事前予約をとらなければならないなど、些か手間がかかります。
この辺りは当職にてサポートさせて頂くことが出来ますので、どうぞお気軽にご相談頂ければと思います。(事前に自筆証書遺言の作成をサポートさせて頂き、保管手続きの申請・予約、法務局へのお付添等、最初から最後までお手伝いいたします)。
8.まとめ
今回の民法改正による法務局保管制度がスタートしたのは、遺言書の作成を推進し、相続人間の争いを減少させたいとする国の考えに基づくものです。
そして「法務局保管制度を用いた自筆証書遺言」は、公正証書遺言と自筆証書遺言の良いとこ取りをした制度である、といえるものです。
使いやすくなった制度を、是非ご利用されてみては如何でしょうか?